1995年度以来調査を行ってきた、タンザニアのマハレのアカコロブスの対チンパンジー戦略に関して、これまで現地で収集してきた資料を分析した。その結果、1)マハレのアカコロブスはチンパンジーの接近に対してはまず隠れ、チンパンジーによる狩猟が始まるとおとな雄を中心に反撃するという「警戒・防衛戦略」を取っている、2)対チンパンジー戦略としてアカオザルと混群を作ることはないといった点が明らかになった。また共同研究者である京都大学の上原教授とともに、チンパンジーの狩猟対象となっている昼行性哺乳類8種の生息密度に関する分析を行った結果、狩猟対象の選択は必ずしも獲物の生息密度と相関するわけではないといった点が明らかになった。さらに共同研究者であるマックスプランク研究所のBoesch教授および上原氏とともに、コートジボアールのタイ森林とマハレのチンパンジーとアカコロブスの種間関係について比較した。その結果、1)両地域ではチンパンジーの狩猟方法が異なりそれに応じてアカコロブスの対チンパンジー戦略も異なる、2)こうした違いは植性や気候といった環境条件の違いだけでは説明できないといった点が明らかになった。また1999年度にウガンダのカリンズ森林で行った現地調査で得られた資料を分析した。その結果、1)カリンズではこれまでアカオザルとブルーモンキーがチンパンジーに捕食されている証拠が得られていたが、それ以外にアビシニアコロブスもチンパンジーに狩猟されている可能性が高いこと、2)カリンズのチンパンジーの狩猟方法は、タイ森林のチンパンジーの方法よりもマハレやタンザニアのゴンベのチンパンジーの方法との共通性が高いこと、3)アビシニアコロブスはグループサイズを小さくしたり、おとな雄が警戒音を鳴かないなど、チンパンジーに対して徹底した隠伏戦略を取っていることが明らかになった。
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