研究概要 |
視覚誘導性眼球運動の反応時間は、通常200msである。しかし、視覚入力を受け眼球運動が起こるまでの最短の神経回路網を考えると、網膜→外側膝状体→大脳視覚野→上丘→脳幹眼球運動中枢であり、電気生理学的な手法により調べられてきた中継核間の伝導時間から考えると、最小80msにすぎない。すなわち,実際の反応時間より、120msも早くおこす神経回路網が存在している。本課題ではこのように「形態学上存在する最短の神経回路は平常では機能しておらず,特殊な条件下のみで解発される」という仮定のもとに,刺激条件,被験者の状態を種々変化させどのような条件で最短の神経回路が解発されるかを検討した。 被験者は、頭部を固定して椅座する。被験者の眼前1.2mに、3つのLEDを設置した。1つは正中に固視点として、あと2つは左右離心度10度の位置に視標として設置した。眼球運動は強膜反射法で次の2つのタスクでの反応時間を比較した。 1)Normal Overlap Paradigm(コントロール):正中LED(F)を固視させ、F点灯のまま1.5-3秒後、視標を点灯。 2)固視点消灯の代わりに、固視点LEDの色を変え、その後、0,50,100,200.300,400ms後に視標を点灯。 作業仮説:従来いわれているように反応時間が早くなるのが固視点から能動的な視線の解放あるいは注意の解放であるなら、2)で色が変わったとしても、固視点は点灯したままなので、normal overlapと同様であり、overlap paradigmと反応時間は変わらないはずである。 結果は、normal overlapでの反応時間が220msであったのに対し、固視点の色を視標呈示前200msに変えると133msとなった。反応時間の遅速は注視点の消灯そのものでなく、視標点の色が変わることによる視標点灯前の被験者の受動的メンタルセット確立が重要な要因であることが明らかになった。
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