周辺視野に刺激が出現すると、視線を刺激方向に向ける定位反射が約180msの潜時で起る。刺激提示に先行し注視点を200ms消灯することで、潜時130ms以下のexpress saccadeを起こすことができる。又、刺激提示前200msの時点で注視点の色を変えることでも潜時の短縮がみられ注視点の消灯・色の変化共に受動的メンタルセットを高揚し潜時短縮に重要な因子である事を昨年度報告した。本年度は受動的メンタルセットを高進させることで随意性のsaccadeが反射性の場合と同程度の潜時短縮を引き起こすことが可能かを検討した。 被験者は、頭部を固定して椅座する。眼前1.2mに、3つのLED(正中の固視点と、左右10度の位置)を設置した。眼球運動は強膜反射法で記録した。視標提示200ms前に注視点を消す方法で、注視点の色が緑のとき刺激と反対方向anti-task、赤のとき刺激方向に向かわせるpro-taskをランダムに行った。 全被験者のpro-taskでの平均潜時は152±38ms(N=774)で、ヒストグラムから100msと155msにピークがあり、express(32.4%)とregular saccadeに区分できる。注視点消灯による運動準備、go signalとしての周辺視覚刺激点灯は両タスクに共通しているにも拘らずAnti-taskの潜時は200±36.4ms(N=921)で、pro-taskより有意に遅く一峰性の分布を示した。注視点の色を変えメンタルセットを高揚させる事でexpressを出現させる事ができる(昨年度)にも拘らずantiでは出現しなかった事を考え合わせると、随意性運動の発現はメンタルセットの高揚があったとしても、反射性のsaccadeの潜時より有意に遅れ、光刺激に対応した上丘内saccade発現神経回路網が潜時決定に重要であることが示唆された。
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