平成14年度は前年度に引き続いて、京都市嵐山のニホンザル餌付け群、鹿児島県屋久島のニホンザル野生群、タンザニア共和国マハレ山塊国立公園のチンパンジー個体群、マダガスカル共和国ベレンテイ保護区のワオキツネザル個体群を対象とするフィールド調査で得られた資料をもとに、主として集団内の雌の競争と共存のメカニズムについての研究を進めた。 具体的な成果として、(1)野生ワオキツネ個体群について、1989〜98年の人口学的資料を分析して、(1)対象集団の人口が増加している、(2)個体数が20頭を超すと、群れの分裂やメスの追放等が頻発した、(3)その結果、メスの群れからの離脱・移籍も起こるが、本質的にfemale philopatryにあたる、(4)メスの生存曲線では、2-3歳で生存率はほぼ50%となったのち、9歳で20%まで低下すること等について、英語論文を作成して、学術雑誌に発表した。(2)チンパンジーの雌について人口学・繁殖生理学的資料を分析するとともに、近縁種であるビーリャ(ピグミーチンパンジー)と比較研究をおこなった。この結果は専門書『マハレのチンパンジー』(西田利貞、上原重男、川中健次編、京都大学学術出版会刊)の第17章「性をめぐる比較」(pp.393-417)で公刊した。(3)ワオキツネザルの群れの雌間関係を、近接と相互交渉によって解析するとともに、群れサイズと繁殖成功の相関から、群れのサイズによる雌の競争のあり方について分析をすすめながら、論文を作成中である。同じく(4)チンパンジーの雌の発情の同調について、メスの競争の視点から分析して、現在、論文を作成中である。
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