研究概要 |
MHPOBCやTFMHPOBCで代表される典型的な反強誘電性液晶においては強・反強誘電性が競合していると考えられる.(1)反強誘電性Sm-C_A^*および強誘電性Sm-C^*との中間温度域に現われる少なくとも5つの副次相,(2)常誘電性Sm-Aの直下に現われるSm-C_α^*,(3)薄いホモジニアス([スメクティック層]⊥[基板])セルにおいて観測されるV字スイッチング,これらは競合を具現化している.V字スイッチングは閾値も履歴も無く,低電界で均一一様に起こり,TFT駆動に適している.キラルスメクティック液晶におけるスイッチングなので高速応答であり,ディスプレイへの応用が期待されている. このV字スイッチングの発現機構を解明しようとするのが本研究の目的である.まず,なぜ反強誘電性になるかを分子論的に考察した.強・反強誘電性と言っても間接型である.全層同じ向きに傾く(synclinicになる)か,1層ごとに逆向きに傾く(anticlinicになる)かがより本質的である.詳細な検討を行った.通常の分散力やパッキングエントロピーはsynclinicを助長する.SynclinicなSm-C_AとSm-C_A^*を出現させるのは,層間における分子長軸に垂直な双極子モーメントの配向相関-<V_<dd>^2>/2kTであると結論された. Sm-C^*とSm-C_A^*との自由エネルギー差は僅かなものである.したがって,synclinicになるかanticlinicになるか,方位角の自由度と相俟って,強・反強誘電性の競合は起こるべくして起きるのである.V字スイッチングはバルクの性質ばかりでなく界面の影響により出現する.三菱ガス化学により開発されてきたV字用スイッチング材料は100℃以上にも及ぶ広い温度範囲で一見単一と思われるフェリ相を示すと記されている.このような相の出現をANNNIモデルでJ_3<0と考え,どこまで理解できるかを検討した.
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