研究概要 |
これまでに,代表的なペロブスカイト型強誘電体であるBaTiO_3(BT),PbTiO_3(PT),SrTiO_3(ST),およびBTとSTの混晶(BST)について,詳細なX線回折測定を行ってきた.その結果,強誘電性を示すBT, PTにおいては表面層において結晶格子が緩和しており,その大きさはそれぞれ0.035nm,0.015nmであることを明らかにした.さらに,第一原理計算を行って,こうした表面緩和現象は,微粒子表面における結合の性質が共有性からイオン性に変わることにより生ずることを明らかにした. 本年度は,強誘電性と格子緩和の間に強い関連があることを示すために,室温では常誘電性を示すSTにおける格子緩和をさらに詳しく測定した.サイズの異なるST微粒子を作製してX線回折測定を行い,これまでと同様の手法を用いて表面の格子緩和を求めた.その結果,STの表面緩和は極めて小さいことが確認された.このことは,強誘電性の発現と格子緩和が大きな関係をもっていることを示唆している.しかし,現段階ではまだその関係は解明されたとはいえない.今後,BTおよびPTにおいてキュリー点近傍における格子緩和の温度依存性を明らかにする必要がある. 以上の格子緩和の研究に加えて,これまでの研究を通して開発されたナノ粒子作製技術およびサイズ効果測定技術を用いてPb(Zr_xTi_<1-x>)O_3(PZT)薄膜を作製し,その圧電および誘電特性を調べた.その結果,PZT薄膜を構成する微粒子の粒径を小さくすると格子振動数から計算した誘電率の値が大きくなることが示された.これは,電極など界面の問題を解決することができればサイズ効果を誘電特性改善に利用する可能性があることを示している.
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