研究概要 |
研究テーマの「GaAs/AlAsリッジ構造中のキャリアーダイナミックス」を調べるために、今年度は蛍光寿命の測定を行った。リッジ細線構造は基板上に形成されるファセット構造を利用したもので、細線構造と同様の積層構造をもつ2次元GaAs/AlAs量子井戸の蛍光測定と比較することを計画した。蛍光励起にはチタンサファイア再生増幅システムからの出力光(パルス幅140fs,1kHz)の第2高調波(λ=400nm,100μJ/pulse,)を用い、蛍光スペクトル(分光器+光電子増倍管)および蛍光寿命(ストリークカメラ)を測定した。 現状では2次元GaAs/AlAs量子井戸の蛍光測定が終わった段階であるが、強励起した場合のスペクトルが興味深いものであったので、日本物理学会(2001年春、中央大学)で報告する予定である。用いた2次元GaAs/AlAs量子井戸試料は、A1458(AlAs(10nm)-GaAs(7nm)-AlAs(3nm)),A1472(AlAs(5nm)-Al_<0.5>Ga_<0.5>As(170nm)-GaAs(6nm)-Al_<0.5>Ga_<0.5>As(170nm)-AlAs(5nm)),A1480(AlAs(3nm)-Al_<0.3>Ga_<0.7>As(283nm)-GaAs(7nm)-AlAs(3nm))の3種類である。スペクトル測定と蛍光寿命測定結果をまとめると次のようになる。 (1)強励起の場合には、蛍光スペクトルは非常に広いスペクトルとなり、GaAs井戸の励起子だけが発光しているわけではない。バリアー層AlAs,Al_<0.5>Ga_<0.5>As,Al_<0.3>Ga_<0.7>Asで励起されたキャリアーがGaAs井戸の高励起状態にも流れ込み発光していると考えられる。A1480の試料では、タイプIであるAl_<0.3>Ga_<0.7>As層の発光も強く観測される。 (2)弱励起の場合には、蛍光スペクトルにはGaAs井戸の励起子発光が主な寄与をする。発光スペクトル幅は非常に狭くなるが、試料の質が悪いA1472では広めになっている。 (3)蛍光寿命はGaAs井戸の励起子発光部分ではns程度と長いが、高励起状態からの発光部(λ<780nm)では寿命が波長が短くなるとともに短くなる。これは、高励起状態が低エネルギー準位に緩和するためだと考えられる。A1480の試料のAl_<0.3>Ga_<0.7>As層の励起子発光(λ〜666nm)の寿命も比較的短く、キャリアーがGaAs井戸へ緩和するためと考えられる。 これらの測定を基礎に、GaAs/AlAsリッジ構造の蛍光スペクトルと寿命の測定を行い、リッジ細線構造中でのキャリアーダイナミックスを調べていく予定である。また、当初の研究計画に入れていた縮退四光波混合の測定については、岡山大との共同研究で行っているZnP_2について最近測定できるようになったので、その技術をリッジ細線構造に応用して位相緩和についても測定できると考えている。
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