本研究では、自己組織性の量子井戸材料であるハロゲン化鉛系層状ペロブスカイトを発光層として用い、有機電界発光素子におけるキャリヤ集約による高効率発光の原理を応用した新しいレーザ発振素子の可能性を明らかにすることを目的とした。具体的には、以下の点を目的に研究を進めた。 1)キャリヤ集約の原理を利用した外部注入キャリヤによる無機半導体薄膜発光層の高効率駆動の可能性を検証し、高効率発光実現のためのデバイス設計指針を明らかにする。 2)有機/無機ヘテロ構造素子へ光共振器構造を導入する手法を確立し、その光励起および電流励起下での発光特性を詳細に検討することでレーザ発振素子としての可能性および問題点を明らかにする。 本研究で得られた成果は以下の通りである。 (1)キャリヤ集約による高効率電界発光 フタロシアニンを正孔輸送層、オキサジアゾールを電子輸送層として用いた三層ヘテロ構造素子において、キャリヤを層状ペロブスカイト発光層へ集約でき、高効率の電界発光が実現可能であることが示された。特に臭化鉛系層状ペロブスカイトを発光層として用いた素子においては、発光効率が30倍になることが示された。 (2)カチオン混合による室温での励起子発光の高効率化 層状ペロブスカイトの発光材料としての問題点は、100K程度の低温では非常に高い励起子発光効率を示すが、室温ではその効率が大きく低下することであった。ここでは、鉛と同じ二価カチオンを混合することで室温での発光効率を5倍以上増大できることを見出した。 (3)Langmuir-Blodgett法による層状ペロブスカイト薄膜作製法の確立および微小共振器素子構築への応用 Langmuir-Blodgett法を用いて層状ペロブスカイト薄膜を作製する手法を確立した。これにより、分子レベルで構造や膜厚を制御した層状ペロブスカイト薄膜の作製が可能となった。さらに、この手法を用いて微小共振器素子が構築可能であることを確認した。 (4)ナフタレン発色団を導入した層状ペロブスカイトからのりん光電界発光素子 ナフタレン発色団を有機層に導入した層状ペロブスカイトにおいて無機半導体励起子からナフタレン発色団励起三重項状態への効率良いエネルギー移動による、りん光発光の増強効果を見出した。このペロブスカイト薄膜を発光層とした電界発光素子においてりん光に起因した電界発光に成功した。
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