今年度の研究実績は次のようにまとめられる。 1.Erの発光センターを活性化するために、ZnO:Er薄膜を大気圧酸素雰囲気中で700℃、3分間の熱処理を施し、XRD測定により薄膜の結晶性を評価した。その結果、強いc-軸配向性を示しており、典型的なZnOバルク結晶と比較してみると、薄膜ではEr添加によりc-軸長が約0.9%伸張していることが明らかになった。 2.ZnO:Er薄膜の抵抗率を四端子法により求めた。大気圧酸素雰囲気中で700℃、3分間の熱処理により抵抗率は6.3×10^<-3>Ωcmから100Ωcmへと約4桁の増加を観測した。アニール前では良好なn型の導伝性を示したが、アニールにより酸素欠損が回復した結果、導伝性の低下を生じたと考えられる。 3.Er^<3+>イオンの1.54μm発光機構を理解するために励起スペクトル(PLE)の測定を行った。観測されたPLE信号のピークは、それぞれ基底状態から^4F_<9/2>、^4S_<3/2>、^2H_<11/2>、^4F_<7/2>の各励起準位への吸収遷移であることを実験的に明らかにした。 4.Er^<3+>イオンの励起準位を直接励起した場合、あるいはZnO母材を励起しEr^<3+>イオンを間接励起した場合の1.54μm発光スペクトルを測定した。直接励起では、^4F_<9/2>→^4I_<15/2>、^4S_<3/2>→^4I_<13/2>、^4I_<11/2>→^4I_<15/2>準位のEr^<3+>イオンの発光遷移を観測した。間接励起の場合には、これらの発光ピークは全く観測されなかった。直接励起の場合にはEr^<3+>イオンの励起準位間をカスケードに緩和し、最終的に第一励起準位から基底準位への1.54μm発光が生じる。しかし、間接励起ではカスケード的なEr^<3+>イオンの緩和は行われずに、ZnO母材に光励起により生じた電子・正孔対の消滅エネルギーが直接にEr^<3+>イオンの第一励起準位を励起し、1.54μmの緩和発光を生じさせていると結論される。
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