本研究ではSi熱酸化プロセスが関与する多くの諸現象を互いに関連づけて統合的に理解することを目的とし、これまで広く用いられてきたDeal-Groveモデルにおける酸化膜中での酸素拡散と界面反応のみに基づく考え方に限界があると考え、熱酸化に関与するもう一つの成分であるSi原子の役割・挙動を取り込むことにより極薄Si酸化膜形成の物理的描像を革新し、それに基づいてSi熱酸化プロセスの反応モデルの構築を進めた。 熱酸化プロセスにおいて酸素だけでなくSi原子の挙動も一緒に調べるために、反射高速電子回折法のプローブである斜入射電子で励起したオージェ電子分光法(RHEED-AES)を用いることにより、Si熱酸化の初期過程において酸化膜被覆率と表面形態/構造を同時に「その場」観察可能とした。このRHEED-AES法を用いてSi(001)表面の熱酸化過程をリアルタイムモニタリングした。酸化膜被覆率の時間発展からラングミュア型吸着、二次元島成長、エッチングの反応領域(温度、酸素圧力)を明確に決定した。各反応領域において酸化膜被覆率と表面形態/構造との相関をとることにより、ラングミュア型吸着領域では酸化にともなうSi原子放出が示唆され、二次元島成長領域では表面荒れの発達過程が明らかにされた。前者のSi原子放出は酸化による体積膨張の歪み緩和のために生じたものと考えられ、以前に報告された第一原理計算からの予測を支持し、Si熱酸化の物理的描像を考えていく上で重要な結果である。さらに、二次元島成長とエッチング領域においてRHEED強度の周期的振動現象を観察し、エッチング速度のリアルタイムモニタリングを可能とした。酸化膜被覆率とエッチング速度の比較から、酸化膜成長とSiO脱離が競合する反応過程を明らかにした。 以上で述べたように、2年間にわたる本研究においてRHEED-AES法を用いてSi熱酸化の表面動的過程を「その場」観察し、極薄シリコン酸化膜形成の表面反応モデルを構築した。
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