研究概要 |
電荷密度波の集団運動を利用した,新しい動作原理に基づく非線形光学素子を開発することを目的として,本年度は主に良質の単結晶育成条件の確立とフォトリフラクティブ効果測定用光学系の構築を行った. 1.低次元伝導体の単結晶育成 電荷密度波を生成する擬一次元伝導体NbSe_3,TaS_3および擬二次元伝導体TaS_2の単結晶を,化学気相成長法で育成した.前者は,定比の出発物質を600℃以下の比較的低い温度で育成したときに,良質な結晶が得られることが明らかとなった.しかしながら育成温度が低いため成長速度は遅く,得られた結晶は1000×10×0.1μm程度の非常に細い針状であった. TaS_2の単結晶は,定比の出発物質に加えて輸送剤のヨウ素を加えることにより,大きな板状単結晶が得られた.さらに過剰のイオウを加えることにより伝導キャリアの注入が起こり,電荷密度波転移が抑制されることを確かめた.このとき注入されるキャリアは電子ではなく正孔であることを新たに見出し,現在これに関する論文を準備中である. 2.フォトリフラクティブ効果測定用光学系の構築 Ar^+レーザーで発振された10mWのポンプ光(488nm)を,NDフィルタを通してハーフミラーで1/2分割した後,クライオスタット内部のサンプル位置に干渉パターンを形成するように光学系を構築した.この干渉パターンによって誘起された試料内部の空間電荷による屈折率変化を,He-Neレーザーとフォトディテクタで読み取る。前述したように測定試料は針状で微小なため,新たに焦点距離100mmの球面レンズを用いて,He-Neレーザーを絞るように改良した. 今年度の成果に基づき,来年度は電荷密度波の集団運動(並進)により分極の誘起と再構成が起こることを実証し,それによる非線形光学定数の変化を明らかにし,電荷密度波集団運動の理論と比較検討するとともに,実用化への指針を探る。
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