研究概要 |
電荷密度波の集団運動を利用した新しい動作原理に基づく非線形光学素子を開発することを目指して,本研究では,(1)AlGaAs/GaAs単一ヘテロ構造に代表される理想的な2次元電子系における電荷密度ゆらぎと光散乱の解析,(2)遷移金属カルコゲナイドに形成される電荷密度波の挙動の解明,および(3)遷移金属カルコゲナイドを用いた非線形伝導とフォトリフラクティブ効果の実験を行った. (1)理想的な2次元電子系における電荷密度ゆらぎと密度変調の解析 AlGaAs/GaAs単一ヘテロ構造の2次元電子系における電荷密度ゆらぎによる共鳴光散乱の実験を行い,それに対する理論的な解析を行った.さらに,バイアス電圧を表面周期グレーティングに印加することで発生する2次元電子密度変調の様子を理論的に解析した. (2)遷移金属カルコゲナイドに形成される電荷密度波の挙動 電荷密度波を生成する擬一次元伝導体TaS_3および擬二次元伝導体TaS_2の単結晶を,化学気相成長法で育成した.TaS_2の単結晶育成時に過剰のイオウを加えると,伝導キャリアの注入が起こり,電荷密度波転移が抑制されることを明らかにした.このとき注入されるキャリアは電子ではなく正孔であることを新たに見出した. (3)電荷密度波状態における非線形伝導とフォトリフラクティブ効果の実験 擬一次元伝導体TaS_3の針状結晶をクライオスタットに取り付け,180Kまで冷却し電荷密度波状態を実現する.この温度で電流・電圧特性を測定したところ,しきい電場以上で電流値が増加するという明確な非線形伝導が観測された.これはしきい電場以上で電荷密度波の集団運動が電気伝導に寄与することを示している. この状態の試料に対して,Ar^+レーザーで発振されたポンプ光(488nm)を照射すると,試料を流れる電流の値が変化することが確認された.レーザー照射による電流変化は,しきい電場付近で最大となり,電場の上昇とともに小さくなる.この効果は,光照射により電荷密度波の変形すなわち分極変化が実際に起こっていることを示唆している.現在のところ,これをフォトリフラクティブ効果を通じて検出するには至っていないが,今後反射率の変化を測定することにより,電荷密度波の集団運動(並進)により分極の誘起と再構成が起こることを実証したい.
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