平成12年度は任意スペクトル分光刺激装置の試作を行った。本装置の原理を簡単に述べると以下のようになる。まず、平行光を回折格子で分散した後、レンズにより各波長ごとのスリット像を結像する。スリット像の位置にデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)を置き、各波長の強度をパルス幅変調により調整する。DMDより反射した変調光をレンズおよび回折格子を用いてこれまでと逆の行程で複合光に再合成し、被験者に提示する。試作段階ではまず、レンズと回折格子を用いてスペクトルヘの分解と複合光への再合成ができることを確認した。次に、DMDを挿入し、各波長に対応したピクセルの位置の諧調を変化させることで、各波長成分の強度が調整できることを確認した。 平成13年度は光学系を完成させ、装置の較正を行い、等色関数の加法性を調べるための予備実験を行った。光学系を完成させる段階ではDMD自身が回折格子として働くため再合成した時の平行光にモアレ・パターンが生じてしまうこと、この影響を取り除くには再合成したスリット像の位置に拡散板を挿入するのが有効であること、DMDが完全にOFFの状態でもわずかながら反射光があり常に背景光が残った状態になってしまうことなどの重要なノウハウが得られた。装置の較正では、ピクセルの位置と波長の関係の較正、ピクセルの幅と純度(単色性)の関係の較正、各波長における最大網膜照度の較正、ピクセルの諧調と網膜照度の較正を行った。これにより、設計どおりの任意分光エネルギー分布を持つ色光が提示できることを確認した。等色関数の加法性を調べるための予備実験では、等色の線形性を検証する実験を行い、線形性はほぼ成り立つが、等色の方法によって等色時の原色の量がわずかに異なることなどがわかった。これらの成果は実験に携わった学生の修士論文として公表したほか、現在学術論文として論文誌「光学」に投稿準備中である。
|