研究概要 |
通常,着氷のシミュレーションには水滴粒子の軌道を運動方程式によって予測する方法が主であったが,今回開発するシミュレータでは混相流体の1モデルである2流体モデルを採用する.これによって振動物体や非定常性の強い現象の予測が可能になる. 昨年度の成果として,2流体モデルによる基礎方程式系の数値計算に関して注意が必要であることを示した.実際,大気の流れに対応する主流として振動する円柱周りのポテンシャル流れや非圧縮性粘性流れを用いた場合,あるパラメータ領域で計算が破綻する可能性がある. このような背景から,主流に淀み点流れを仮定した簡単なモデルを考え,2流体方程式系の理論的解析を試みた.その結果,粒子衝突の閾値よりも小さいStokes数領域では主流に相似な粒子軌道が存在し,粒子密度ηに対して以下の解が得られた. 淀み点近傍η〜(1/|x|)^<αγ>,剥離点(後方淀み点)近傍η〜|x|^<αγ>. ここで,αは正の定数,τはStokes数である.なお,この解は球の淀み点に対して得られた解(Michael, D. H., J. Fluid Mech., 31(1968))を含む一般的な解である. 一方,閾値よりも大きいStokes数域についてはStokes数の逆べきの形で級数解を求めた結果,粒子密度について以下の解を得た. η=1+1/(96)1/τ^2 これらの結果から,物体の淀み点近傍における2流体モデルの粒子密度についてStokes数の広い範囲での特徴が明らかになった.特に,粒子衝突の閾値付近で粒子密度が急激に大きくなることが示されたが,これはすでに得られている数値解と一致する.また,この結果から数値解では物体表面の粒子密度を過小に評価していることも明らかになった.この点は着氷量の予測に重要な役割を果たす局所衝突効率の評価に大きな影響をもつため,2流体方程式系における物体表面の境界条件について再検討する必要がある.
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