研究概要 |
本年度は、拡散過程のシミュレーション技術の開発において成果を得た。 確率微分方程式で記述された拡散過程X(t, x)と関数fが与えられている時、その期待値E[f(X(t, x))]を求める問題は、確率数値解析の大きなテーマである。金融リスクの計算は、まさにこの問題に他ならない。この計算を行う方法として金融リスクの分野では次の方法がもっとも有用であり広く行われている。それは、拡散過程X(t, x)をEuler-丸山近似と呼ばれる方法で近似するという方法である。現在、拡散過程の近似は殆どこのEuler-丸山近似で行われており、また、この近似計算の研究もEuler-丸山近似を前提としたものが殆どである。研究代表者は、Euler-丸山近似とは別の近似方法である楠岡近似を用いることによって金融リスク計算の劇的な高速化を実現した。楠岡近似を用いると近似計算を数値積分に帰着させたとき、その積分空間の次元を非常に小さくすることが出来る。その結果として、数値積分の速度が非常に高速になる。本年度の結果によれば、ある種の金融派生商品の価格計算は楠岡近似を用いるとEuler-丸山近似を用いた場合に比べて約6000倍高速である。 この結果は、今後、金融リスク計算の分野においては、シミュレーションの技法がEuler-丸山近似から楠岡近似によるものにとって代られるであろうことを示しており、非常に重要な結果である。
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