前年度の研究に引き続いて多自由度系におけるStochastic Resonance(確率共鳴)現象を計算機シミュレーションによって解析した。今年度は、ニューロンのモデルを結合させた系における確率共鳴を中心に調べた。具体的には、(1)ニューロンの活動を表すモデルとして生理学的なモデルであるホジキン・ハックスレイモデルを簡単化した、フィッツヒュウ・南雲モデル(HN)を用い、それらがグローバルに結合している系に関して確率共鳴現象を調べ、系の結合をヘブ則によってきめることで、この系に記憶を埋め込み連想記憶の性能を調べた。その結果想起に対して適当なノイズがあるとき、想起しやすいという確率共鳴現象を発見した。(2)ニューロンのモデルとして(1)で取り上げた、微分方程式で記述されるモデルは、生理学的な知見を直接にもっとも反映したモデルであるが、多数のニューロンを結合した場合、取り扱いがたいへん難しくなる。そこで、モデルを簡単化し、より取り扱いやすい、マップで表されるモデルを採用することとする。しかしながら、ホップフィールドモデルのように発火の有無を2値に置き変えて単純化されたものとは違う、内部状態を連続的に表す変数で記述されるモデルを採用し、入力信号に対する確率共鳴の性質を、シミュレーションにより詳しく調べた。(3)(2)で調べたマップによるニューロンのモデルをヘブ則によって結合させ系にパターンを記憶させ連想記憶の性能を調べたところHNモデルと同様、ノイズの大きさを適当にとることで想起が起りやすくなることがわかった。またこの系の記憶容量についても調べることができた。 これらの研究成果を9月に物理学会(徳島市)で発表した。10月から3ヶ月間北京師範大学Gang Hu教授を招聘し確率共鳴に関して研究討論を行った。この成果はまとめて発表する予定である。また、関連した研究をPhs.Rev.Eに発表している。
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