我々は、交通流を車の集団から構成される多体系とみなし、新しい非線形模型(最適速度模型;OV模型))を提案し、渋滞クラスターの形成を相転移の物理現象として捉え、散逸系のソリトン解として記述されることを示した。この研究では、OV模型が高速道路における交通流の基本的振る舞いを良く説明する数理模型であることを踏まえ、OV模型を基礎に置いた結合写像模型(CMOV模型)を構築し、流入流出・トンネルやサグなどのボトルネック・二車線道路の現実的道路状況において交通流を研究する目的で、シミュレーターの開発を進めた。成果として、OV模型による渋滞形成機構の数理的性質をさらに深く理解し、ソリトン系や可積分系との関連に対する理解が進んだ。交通流シミュレータについては、速度揺らぎの効果についての解析のみならず、合流・分岐のある道路状況や、二車線の場合についての基本模型の整備とシミュレータの開発を進め、それにより現実条件下の交通流の振る舞いを再現するための模型の改良を行い、シミュレーターに反映させた。 東名高速道路の実測データに対する解析により、二車線走行交通流の時系列変化の特徴的振る舞い(同期現象:syhchronized Flow)や準安定な渋滞相の発見など、複雑な微視的振る舞いによる新たな動的特性が見出した。CMOV模型を二車線道路に応用したシミュレータによる計算結果と実測データとの照合の結果、月・旧単位の集積データについて良く一致する結果を得た。 さらに、道路公団より異なった状況の様々な地点での渋滞発生地点における大量のデータを取得し、このデータの蓄積と解析ソフトにより本格的なデータベースの構築に着手し、そのシステム設計を行った。渋滞の生成消滅の時間的変化など時系列的性質や渋滞クラスターの空間構造及び動的振る舞いの解析を進めた。また、OV模型を基礎にして、渋滞発生に至る不安定性を抑制する交通流制御の理論を与える目的で、擾乱の減衰やエネルギー損失の抑制を定量的に調べた。これは、将来のITSにおける車両挙動の制御に指針を与え得ることを目指すものである。0V模型を2次元に拡張した模型は、液体中の粉体流の振る舞い、歩行者の集団の流れや避難者集団の数理的模型に適応可能なことを示す成果を得た。
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