研究概要 |
有機材料の信頼性向上のために,宇宙という過酷な環境要因に耐えうる材料の設計開発が重要な課題となっている。この研究では,宇宙構造用材料として使用されている有機複合材料を取り上げ,宇宙環境による強度及び剛性の変化のメカニズムとこれに及ぼす残留応力の影響について検討した。 まず,強化形態の異なる2種類の炭素繊維強化複合材料(CFRPとSCFR-PI)を取り上げ,宇宙環境を模した実験を行って材料の強度及び縦弾性係数の変化のメカニズムを微視的破壊の見地から検討した。高真空中では,試験片表面や繊維とマトリックスとの界面からの水分排出や材料内部ガスの放出があると考えられ,この影響により残留応力の増加とともに素材自身の強度や界面の強度が高くなり,結果として引張強度が増すことを明らかにした。温度が低下するにしたがって,引張強度が低下することもわかった。 この結果をもとに,高真空環境にある有機複合材料に温度変化が作用するする場合を取り上げ,材料表面および界面からの排湿や脱ガスについて温度を連成させた理論解析を行った。複合則などの理論を用いて予測される材料特性と実験結果とを比較し,それぞれの理論の妥当性について検討した。(1)大気環境で試験したSCFR-PIは,はく離や引抜けがおきるため複合則やシェア・ラグ理論では縦弾性係数や強度を評価できないこと,(2)高真空環境では,材料の表面や界面から水分やガスが放出され残留応力が増加するとともに界面の接着力が増加し,有効繊維長さが長くなり,結果として縦弾性係数が高くなることを示した。大気環境でのはく離の影響,高真空環境での脱ガス・排湿と温度の連成した影響及び残留応力の影響を含んだ有機複合材料の強度と剛性評価モデルを考案した。 今後は,これに基づき数値シミュレーションを行って評価モデルの妥当性を評価するとともに,最適な組成と積層構成を求め,材料成型法についても提案する予定である。
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