研究概要 |
本研究は,低サイクル疲労から高サイクル疲労までの広い範囲の応力振幅条件における疲労損傷過程に注目し,疲労き裂の発生位置及び発生時期を超音波波形の変化から予測するための評価法を確立することを目的として実施された。 湾曲した側面を有する黄銅試験片の疲労試験により,以下の結果を得た。すなわち,試験片全体にわたる巨視的ひずみは,応力-ひずみ線図から推定されたひずみ分布と良く一致した。低サイクル疲労試験では荷重繰返し数の増加に伴って巨視的ひずみ分布は最大30%程度まで増加し,その最大値を示す位置近傍で疲労き裂が発生・進展して破壊に至ったが,高サイクル疲労では疲労き裂が発生するまで最大10%程度のひずみの状態が継続した。局所的ひずみは,全体的には巨視的ひずみと同様な変化を示したが,荷重繰り返し数の増加に伴って場所によるゆらぎが増大していった。また,表面の凹凸と局所的ひずみ分布の逆数との間に良い対応のあることが分かった。超音波測定の結果,伝達関数の平均勾配は荷重繰り返し数に従って変化する傾向を示したが,その2次元分布には,試験片中央部近傍の側面に生じた微細き裂の影響は見られなかった。 深い切欠きを有するAl合金試験片を低サイクル疲労条件で疲労試験し,試験片底面からの超音波反射波をFFT解析して得られた超音波スペクトル,底面反射波スペクトルと表面反射波スペクトルとの比(伝達関数)の変化を調べた。切欠き底近傍でそれらの2次元分布を測定した結果,荷重繰り返し数の増加に従ってピーク強さ及び伝達関数の平均勾配は一様に変化していくこと,特に切欠底前面に変化領域が形成されることが分かった。これに対し,ピーク周波数には変化が見られなかった。伝達関数の平均勾配及びピーク強さを用いてマハラノビスの距離による判別分析を行い,切欠き底近傍においてき裂発生との関係を得た。
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