1.Si基板上に蒸着する単一のSi原子あるいは単一のGe原子の挙動と初期堆積過程における堆積層のモルフォロジーに及ぼす基板温度の影響を、Stillinger-WeberポテンシャルとTersoffポテンシャルを採用した分子動力学シミュレーションによって調べた。Si/Siのホモ堆積過程に関しては、(1)基板温度300K、400Kでは、堆積層は無秩序な構造となること、(2)基板温度700K、1000Kでは、堆積原子は1原子層ごとに交互に直交するダイマー列を形成しつつエピタキシャル成長し、この結果は層状成長の実験結果と対応していること、(3)堆積原子1個の挙動を調べると、その運動範囲は、300K、400Kで表面原子の最近接距離より小さく、500Kで表面原子の最近接距離のオーダー、700K、1000Kでは表面原子の最近接距離をはるかに超える距離になり、堆積原子1個の運動範囲が各温度における堆積層のモルフォロジーの違いに対応していることが判った。一方、Si/Geのヘテロ堆積過程に関しては、(4)基板温度1000K、蒸着原子のエネルギー0.2eVの場合にだけ、堆積原子は最初の2〜4原子層だけ層状成長し、その後、無秩序な構造に遷移するが、その他の条件では、堆積原子ははじめから無秩序な構造となることが明らかとなった。 2.Tersoffポテンシャルを用いた分子動力学法によりSi/Ge/Si量子ドット構造の動的なシミュレーションを行い、量子ドット構造内部のひずみ分布に対する温度の影響を調べ、また、光学振動モードに対するフォノンの状態密度を求めた。その結果、(1)動的なシミュレーションによるドット内部のひずみ分布は共役勾配法による結果と定性的に一致するが、温度を考慮するとピラミッド底面に垂直方向の垂直ひずみが大きくなること、(2)光学振動モードに対するフォノンの状態密度のピーク位置がバルクの結晶におけるピーク位置から高周波側へシフトすることが明らかとなった。 3.カーボンナノチューブの力学的特性を分子動力学シミュレーションによって調べた。炭素原子間の相互作用の計算にはBrennerポテンシャルを用い、ほぼ同一の直径をもつ6種類のカイラル角のカーボンナノチューブのモデルに対してポアソン比とヤング率を求めた結果、(1)ポアソン比はひずみ依存性とカイラル角依存性を示すこと、(2)ヤング率はひずみ依存性もカイラル角依存性も示さないこと、(3)弾性域は極めて広いことなど、カーボンナノチューブの基本的な力学的特性に関する知見を得た。
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