研究概要 |
平成12〜13年度に実施した高炭素クロム軸受鋼SUJ2の超長寿命疲労試験の結果,表面き裂発生型と内部き裂発生型の2種類のS-N曲線が共存する二重S-N曲線の存在が確認された.これら二本のS-N曲線は出現する疲労寿命域によって4種類のS-N曲線に分類されまた表面処理の状況によって同じく4種類に分類されることを指摘した. 本研究では,二重S-N曲線の存在とその様式を更に検討するため,高速度工具鋼SKH51,低合金鋼SCM435およびSNCM439,更にはこれらにショット・ピーニング処理あるいはプラズマ光輝窒化処理を施した試験片を用いて超長寿命疲労試験を実施した.その結果,SKH51ではSUJ2とは異なった様式のS-N曲線が得られた.即ち,高応力振幅域における表面き裂発生型破壊から低応力振幅域における内部き裂発生型破壊が連続的に出現し,破壊モードの遷移する寿命域が消失する傾向を示した.SCM435のS-N曲線は低温焼戻し材およびショット・ピーニング処理材においてSUJ2と同様な特性を示した.SNCM439の600℃焼戻し材では10^9回までの疲労において内部き裂発生型疲労破壊は認められなかった.しかし,窒化処理によって超長寿命域で内部き裂発生型疲労破壊が現れた.この現象は二重S-N曲線の概念を用いて説明でき,供試材の有する内部き裂発生型疲労破壊のS-N曲線の存在と出現寿命を予測する上で,表面改質材を用いることの有効性を示す結果となった. 超長寿命域で現れる内部き裂発生型破壊は非金属介在物を起点として発生し,その介在物周囲にはSEM観察の結果,白く輝いた粒状の領域が認められた.この領域をGBF(Granular Bright Facet)と命名し,破壊力学的検討を行った.その結果,GBF領域は疲労の早期に発生し,その進展に全寿命の90%程度を要することが明らかとなり,超長寿命域の疲労破壊を支配する重要な因子であることを指摘した. GBF領域の形成機構を検討するため,FRASTA法による破壊のコンピュータ・シミュレーションを行った.その結果,介在物周囲に存在する微細な炭化物が疲労過程中に基材から剥離して多数の微小き裂を生成し,それらにき裂の連結・合体によってGBF領域が形成され,その後GBFを起点として通常の疲労き裂が発生・進展するものであることが明らかとなった.本研究を通してGBF形成の機構として「微細炭化物の離散剥離説」を提案した.
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