研究概要 |
結晶欠陥場における転位とダイポールが,非Riemann空間における微分幾何学量であるねじれと曲率に対応していることに着目し,それらを縮約して得られる転位密度と不適合度から,拡張されたGN転位密度(幾何学的に必要な転位密度)およびダイポール密度を定義した.さらに,転位の可動性とダイポールの安定性を考慮し,前述の密度をそれぞれ可動転位密度および不動転位密度として定義した. 次に,2種類の転位密度に対する保存則を定式化し,それを局所化して転位密度の平衡方程式を導出した.また,新たに転位拡散のエントロピー流束を熱力学第2法則に導入し,複雑系としての集団転位場に対するエントロピー不等式を提案した. エントロピー不等式から供給エネルギーを消去してClausius-Duhemの不等式を求め,この不等式が常に満足するように,構成式の保存部分として化学ポテンシャルの構成式を得た.一方,最大エントロピー生成速度の原理より,構成式の散逸部分である転位密度流束ならびに転位反応項の構成式を導出した.その際,転位反応としては,外力によるダイポールの自由化,ダイポールによる可動転位の捕獲のみならず,2個の可動転位のダイポール化過程を新たに導入した.また,可動および不動転位の生成・消滅を詳細に記述し,転位発生項を厳密化した.得られた構成式を転位密度の平衡方程式に適用して,転位とダイポールの相互作用を表わす連立反応-拡散方程式を導き,複雑系の熱力学に立脚した形で集団転位の自己組織化モデルを構築した. 得られた反応-拡散方程式に線形安定性解析ならびに分岐解析を施し,Turing分岐発生条件とPSBラダー構造の空間波長が新たに導入したダイポール化速度に依存すること,ならびに空間パターニングに関する分岐経路が同速度には影響を受けないことを明らかにした.こうして,疲労き裂発生に関するシミュレーションの基礎を築いた.
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