本研究はBurwellとStrangの遷移モデルを直接観察により検証しようするものである。すなわち、ランダムに分布した表面粗さを持つ表面が(滑らずに)せん断応力をうけて接触していると単純化し、荷重(垂直、せん断)を変化させていくに伴って、粗さ突起の真実接触点の変形と見かけの接触点の変形を測定することによって、軽荷重状態から重荷重状態の遷移条件を定量的に求め、マイルド摩耗からシビアー摩耗への遷移という摩耗の重要な現象定量的に扱う理論の基礎となることを意図している。本年度は、まず、BurwellとStrangの概念に基づき、ChanとEtsionらの粗さ面弾塑性接触理論とJohnsonの剛体球による弾塑性平面押し込みモデルを組み合わせた臨界圧力の推定を行った。更に相対すべりによる影響についても検討した。 次に昨年度に準備した送り機構を用いて、直行する二円筒試験片のすべり摩擦試験を行った。すべり試験において、せん断応力をうける様々な条件下で摩擦接触部を微小送りをさせながらせん断変形させて、粗さ突起レベルの塑性流動の発生を移着量によって推定した。さらに接線力の測定も行い、真実接触点のみが降伏状態にある軽荷重から見かけの接触面全体が降伏状態にある重荷重への遷移点とを比較した。また、摩耗形態の遷移条件におよぼす面圧、せん断応力、材料のヤング率、硬さといった力学的な特性、表面粗さや形状といった幾何学的な状態、表面のせん断強さの影響について、理論および実験から定量化を求めた。なお、ナノ送り機構を用いた接触点の変形の直接観察については、測定まで至らなかったため、今後引き続いて行う予定でがある。
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