研究概要 |
人工関節に使われている超高分子量ポリエチレンの摩擦熱による疲労摩耗への影響を調べた.実験では熱特性の異なる材料,滑り速度,接触圧,潤滑液の量を変化させ,接触点近傍の潤滑液の温度上昇を測定した結果,最高で10℃以上の温度上昇が観測された.一方,温度によるポリエチレンの硬さの変化を調べるために衝撃試験を行い,ヘルツの理論を適用することでヤング率を評価した.その結果,ヤング率は24℃〜42℃の範囲で温度の上昇に伴い1.7GPaから1.35GPaに低下することが認められた.この結果から室温での摩耗実験は硬い試験片で実験していることを意味しており,温度上昇を無視した体温下での実験でもやや硬い試験片を使った評価であることを意味しており,両者の結果は単純に比較できない.温度による硬さの変化を注意深く実験に取り入れるべきである.潤滑液の量を変えた実験からは,液量を増やせば温度上昇値の小さくなることが認められ,摩擦発熱に対する潤滑液の冷却効果を確認した.しかしながら潤滑液量と温度の低下は単純な反比例ではなく,接触点近傍では潤滑液内にも温度勾配のあることが分った.すべり速度と接触圧を変えた実験では,温度は理論通りにそれぞれに比例して高くなり,実験法の妥当性が確認できた.関節を単純化したリング状のポリエチレン試験片をサファイアガラス上,あるいはCo-Cr-Mo合金平板で揺動させた実験では,動かす側の熱特性が非常に重要なことが分った.すなわち,熱伝導率の悪いポリエチレンリングを熱伝導率の良い平板上で揺動させると温度上昇値は大きくなるが,逆に熱伝導率の良いCo-Cr-Mo合金リングをポリエチレン平板上で揺動させると温度上昇値は前者と比べ半分以下になることが分った.現状では接触圧とすべり速度だけで接触状態の過酷度を表している場合が多いが,ポリエチレンが摩擦熱で軟化することを考慮すれば,温度上昇の大きさまで考察すべきであることを示している.
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