研究概要 |
人工関節に使われている超高分子量ポリエチレンの摩擦熱による疲労摩耗への影響を調べるための基礎研究をおこなっている.平成12年度は潤滑液温度のみの測定であったが,平成13年度はポリエチレンリングをサファイアガラス円板に対して押付けた状態で揺動させて往復滑り摩擦を与え,赤外線放射温度計により滑り接触域内の温度を直接測定した.その結果,接触域内の温度分布は往復動により平均化されて滑り方向に対してはほぼ一様なことが分った.一例として平均接触圧12.7MPa,すべり速度50mm/sでは30分後で約12℃の温度上昇が確認された.温度は30分程度では飽和しなくてさらに徐々に上昇することも確認された.接触域近傍の潤滑液温度の上昇値と接触部の温度上昇値には線形関係があり,接触部の温度上昇値は潤滑液温度の上昇値の約1.8倍であった.接触幅の実測値からポリエチレンのヤング率をヘルツの式より計算した結果,約0.4GPaであった.この値は衝撃試験機で得た値の半分以下であり,両者には静的試験と動的試験の違いもあるが,膜厚などを計算する数値シミュレーションでは通常ポリエチレンのヤング率として1GPa以上の値を使って計算されているため,注意が必要なことを指摘した.摩擦係数と面圧から摩擦による仕事率を計算して接触域近傍の潤滑液の温度上昇値を整理した結果運動側材質の熱伝導率の大きい方が,潤滑液温度の上昇率が大きいことが確認され,摩擦熱の排熱効果を高めるには材料の組合せ方に注意すべきことを指摘した. 接触域内の温度上昇を説明するため,接触部以外は断熱された半無限体の帯状一様加熱モデルを仮定して,数値モデルによる計算結果と実験結果を比較した結果,両者は類似の挙動であることが分った.
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