研究概要 |
長期循環補助を目的とした遠心式血液ポンプを開発する上で,最も大きな問題は血液の軸シール問題である.本研究においては,この問題を解決するために,クールシールシステムを用いた液々分離型メカニカルシールを採用した,このメカニカルシールの摺動面の外側は血液であり,内側はクールシール液(純水)である.メカニカルシールの摺動面間は1μm以下の液体の薄膜が形成されており,これによって良好な潤滑と密封が達成される.しかし,そこに隙間がある以上,拡散によって血液およびクールシール液が摺動面を通って反対側へ流れ込む可能性があり,その量を把握しておく事は,遠心式血液ポンプを開発する上できわめて重要である.そこで本研究では,in vitro試験装置を用いて,血液相当液およびクールシール液の双方向漏れ量を計測する方法を確立する事を目的とした. 双方向漏れ量の測定方法としては,原子発光分析法の一つである炎光分析法を用いた.原子発光分析法は,熱的に励起された原子が,もとの基底状態に戻る時に放出する光について,その原子固有の波長から定性分析を,光の強度から定量分析を行なう手法である.この手法を用いるために,血液相当液はNa濃度4000[ppm]に調整し,クールシール液はK濃度4000[ppm]に調整する.実験後,双方向に漏れ出た量を求めるために,炎光分析法によりクールシール液中のNa濃度と血液相当液中のK濃度を測定し,血液相当液およびクールシール液の漏れ量に換算した. これにより,血液相当液およびクールシール液の漏れ量は,6[h]で0.02[ml]以下と非常に少なく,本メカニカルシールは,きわめて良好な血液の軸シール特性を示す事を明らかにした.
|