研究概要 |
Si(111)表面の第1-2原子層をAgまたはHで置き換え、ダイアモンド球により摺動することによって摩擦特性が2桁低下する現象を見いだした。このあらたな現象は摩擦力の発生要素として表面元素の化学的性質が摩擦に寄与するかどうかの基本的問題、および真空中で機能する摩擦面を設計するために有用な知見を与えた。科学研究費の2年目にはいり、更にこの現象を理解するため、RHEEDを加えて装置の機能を拡大し、多くの知見を得ることが出来た。この結果は、国際学会における3編のプレゼンテーションと3編の論文に発表した。現時点でさらに3編を国際会議で発表する登録をしている。以下に要約する。 (1)ダイアモンド/Ag1-2原子層/Si(111)系において、超高真空中においてしゅう動すると、摩擦係数0.003程度の超潤滑現象を示す。この低摩擦状態は酸素が10^<-6>Pa以上存在する雰囲気中では明らかに阻害され、水蒸気は10^<-3>Pa以下では低摩擦を妨げない。Ag原子を蒸着する前と蒸着後の表面原子配列は、RHEED電子線回折により確認した。また、ダイアモンドCと清浄Siとの直接接触、および0に被覆されたSi表面とCとの間には、大きな摩擦力が働くことを示す。 (2)Si表面をあらかじめHF+NH_4F水溶液で処理し、水素で終端化したSi表面は、Ag同様低摩擦を示す。この水素を600℃で真空脱離させると、摩擦は急上昇する。また、清浄Si表面に水素ガスを解離吸着させても摩擦係数が低下し、過熟脱離すると急上昇する。明らかに表面の水素(1-2原子層)は低摩擦現象を示す。 (3)以上の結果は、Si表面に置き換えられた表面第1,2原子層の化学的結合力が、ダイアモンドのCと化学結合するか否かで摩擦係数が大きく支配されることを示していると、解釈された。
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