研究概要 |
高真空中で繰り返し摺動にたえる潤滑面を創製することを目的として、過去3年間に渡ってAg,またはHで終端化したSi表面の摺動を研究してきた。結果として半径3mmのダイアモンド球で摺動し、静止荷重で厳密に検定した測定器で100分の1以下の摩擦係数を観察した。この固体接触としては異常に低い摩擦力が発現するに必要な条件を検討した。Ag膜厚1.6原子層以上、10nm以下の領域で上記の低い摩擦係数が観察され、少なくとも1000往復の摺動に対しても摩耗されず、低摩擦を保つ耐久性を示した。またSi表面を水素で終端化し、Si原子のダングリングボンドを終端化iした場合もAgで終端化した場合と同様低摩擦を発現した。今回得られた低摩擦現象は、従来得られているMoS_2,Graphiteなど層状構造を用いた自己犠牲による低摩擦現象、ミクロ触針にょる単結晶間の不整合接触の低摩擦現象とは異なる、新たなランダム表面原子層による低摩擦摺動機構である。これはAg原子が常温でも移動可能な性質に関連し、自己修復できる摩擦面の創製にあると考えた。 この摩擦機構として、今の段階で考えられる摺動モデルでは、Ag薄膜が極薄となり2次元構造に近づくと、接触面の原子の結合力が低い場合は、Ag原子はバルクAg材料とはかけ離れた優れた流動特性を示す。また、Ag, H終端面に共通な特性はダイアモンドCと極めて弱い化学結合しか存在せず、かつAg, HはSi面に共有結合によって強く束縛され、ダイアモンドに移着しないでSi表面に留まることが出来る。この特性により、Si, Cの表面粗さは変わることが無くとも、わずか1-数原子層がせん断面として働けば、摩擦は充分低く下がることを実証した。この結果は、国内国外で開かれた学会で発表した。科学研究費で支援していただいたことに心より感謝している。
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