研究概要 |
内燃機関の燃費改善と信頼性向上のために,低粘度マルチグレード低フリクション潤滑油の適用とEGRすす劣化・汚損対策が必要である.つまり,機関しゅう動要素各部で油膜厚さは極端に薄くなり,混入すす・異物によるトライボロジー問題が起こる.ピストンリングやピストンスカートとシリンダ,軸と軸受,カムとフォロワのような衝撃荷重を受ける往復すべりや転がり・すべりの接触部で,すす・異物懸濁状態の潤滑油サブミクロン膜形成となり,摩擦や摩耗が増大する.そこで,薄膜粘性せん断流れ場におけるすす・異物介在の影響を調べ,摩擦や摩耗の因子やメカニズムを明らかにし,摩擦低減と摩耗防止のための設計指針を検討することにした. 本研究では,エンジン油すす混入劣化・汚損が実働ディーゼル機関の全摩擦損失に及ぼす影響,カムとフォロワの摩擦や摩耗に及ぼす影響,カムと平タペットやローラタペットの摩擦に及ぼす影響などを調べた.その結果,軽度のすす混入劣化・汚損であれば全摩擦損失は減少する傾向にあること,混入すすの量と粒径および添加剤の種類や組合せによりカム・フォロワ接触面の摩擦や摩耗は変わること,すす混入によりローラタペットの摩擦は高速域で増大する傾向にあること,エンジン排気すすの代わりにカーボンブラックを用いる際の問題点などが明らかになった. したがって今後は,ピストン・シリンダやカム・フォロワの接触を摸擬した動荷重すべり転がり潤滑面可視化装置で,すす懸濁油の粘性せん断流れ場のすす粒子挙動やオイル・スタベーション発生を観察し,膜厚や圧力分布を理論解析し,粘性せん断流れ場の状態を把握し,また摩擦特性や摩耗特性の変化ならびにトライボ化学反応膜形成への影響を調べ,とくに混入すすの量や粒径分布,みかけ粘度や実効粘度,添加剤の種類や組合せなど,潤滑油すす・異物懸濁トライボロジー特性の支配因子を調べ,さらに変動荷重・速度条件下の摩擦や摩耗,それらのメカニズムなどを解明し,エンジンと要素の摩擦低減や摩耗防止につながる設計指針を検討していく.
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