流れ場の制御こ関する研究は数多いが、乱流能動制御の研究は数値シミュレーションによるによる成功例がいくつか報告されているにすぎない。それは、乱流能動制御の実現には数多くの問題が残されていることを意味する。本研究は、その難問の一つである無駄時間によるシステムの不安定化に焦点を絞り、その解決法を見出そうとするものである。近年注目を集めているシンセティックジェット誘起流を対象に、真の意味での流れの能動制御を可能とするシステムの構築を目指す。壁乱流こよる摩擦抵抗が低減できれば、航空機の燃費向上やパイプラインでの流体輸送コスト削減など、乱流抵抗がコストの支配的要因となっている数々の工学問題に寄与できることが知られている。しかし、実用化可能性のある乱流制御法は末だ確立されていない。低次元カオスの制御法として知られるピラガス制御は、無駄時間の存在によって起こるフィードバック制御の不安定性を回避することができる。一方、流れの能動制御においてはセンサーで流れの情報を取得してから、アクチュエータで流れに制御入力が加えられるまでの時間遅れ、つまり無駄時間は通常無視できないものである。計算機上での数直シミュレーションでは乱流の制御が可能だが、実証実験が成功しない主な原因が、この無駄時間によるシステムの不安定化である。 このように、乱流の能動制御実現のためには無駄時間による不安定性を制御する技術が必要であることがこれまでの筆者らの研究で解明されている。本研究は低自由度のカオス制御でその効果が示されているピラガス法が、無限の自由度をもつ流れに対し有効か否かを、粒子画像流速計(PIV)とシンセティックジェットを使った実験で検証することを目的とした。シンセティックジェットとは流れ場に"噴出し"と"吸い込み"を一箇所から交互に行い、実質的に流入流量をゼロとするもので、翼の剥離制御などに用いる研究が行われているが、真の意味での能動制御に成功した例はこれまでなかった。本研究では制御対象流れ場を比較的安定モード数の少ない自由表面を持つ容器内の水流とし、ピラガス法を使い流れ制御においてもクローズドループの能動制御が可能であること実証することができた。今後この成果を基に乱流制御の実現に向けて歩みを進めたいと考えている。
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