研究概要 |
人間のからだの内部環境は脳で維持・管理されている。維持・管理の情報は,脳から自律神経系,内分泌系,免疫系を経て,からだに送られ,内部環境はホメオシタス(恒常性の維持)をはかっている。しかし,外部環境からからだに危機がおよぶと感じた場合,これを乗り切るために3つの系において応答の速い自律神経系が働き,からだが緊急に反応する。前年度の研究で明らかにされたように,圧縮空気が空気圧機器から大気中に排気されるとき,強い騒音が生じ,不快感や不安感を生じる。このような情動の発生は自律機能に影響を与え,からだにストレスを生じさせると予想される。 そこで本年度の研究では,空気圧用消音器から発生する騒音が,人間の自律機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 空気圧用消音器により減衰した騒音を被験者に聞かせると,騒音のない場合と比べ,心拍数が上昇する。さらにR-R間隔変動係数C_<VR-R>を求めると,その値は大きくなる。また,空気圧用消音器により減衰した空気圧騒音により呼吸数が増加し,精神性の発汗が認められた。 騒音刺激による脳への入出力を考えることにより,上述の自律機能の変化を考察する。まず脳へ入力系では,空気圧騒音は聴覚器官を経て,脳内の視床下部,大脳辺縁系,大脳新皮質に伝わる。視床下部は,自律神経により全身の内臓の動きをコントロールする。大脳辺縁系は,空気圧騒音を受け取り,不快感や本能的な情動を生じる。この情報は,大脳新皮質においてα波の消滅やβ波の発生として脳波にあらわれる。いっぽう脳からからだへの出力系では,大脳辺縁系によって不快と判断された情報は視床下部から,自律神経の交感神経を経て,個々の内臓に伝達する。この結果,心拍数,呼吸数が増加し,発汗したと考えられる。 以上をまとめると,空気圧消音器から発生する騒音が人間に不快な情動を生じさせ,心拍,呼吸,発汗などの自律機能へ影響を与えることが明らかになった。
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