研究概要 |
まずFRPに直径が数mm程度の穴を多数あけたスペーサーでHeII流路を仕切った場合に,穴のあいていないスペーサーで流路が仕切られている場合に比べて,どの程度冷却特性が向上するかを明らかにした。つぎに,直径が数μm程度の多孔質材を用いることで,熱機械効果によるHeIIの強制対流を流路内に誘起させたときの,冷却性能の向上について明らかにした。多孔質材には,アルミナ製とプラスティック製を用いて,両者の性能の比較を行った。その結果,主に次のようなことが明らかになった。 穴の直径が数mm程度のスペーサーが使われたときのλ転移熱流束は,穴のあいていないスペーサーが使われたときのそれより,約1.5倍大きくなった。5%程度の小さな空隙率でも2流路間の良好な熱伝導が得られたことから,実際の超伝導マグネットにおいて,スペーサーに若干の穴をあけてHeII流路をつなげることは、発熱が生じた流路内の局所的な温度上昇を抑えるための有効な手段となり得る。 穴の平均直径が数μm程度の多孔質スペーサーを用いた場合は,λ転移熱流束はさらに大きくなる。多孔質材が焼結プラスティックの場合も,アルミナ製多孔質材とほぼ同程度の冷却性能が得られた。これらのスペーサーを用いた場合は,定常時だけではなく非定常時でも高い冷却安定性を得ることができる。また流路内がHeIIで満たされているときはもとより,HeIが発生したときにおいても,熱機械効果が効果的に作用する。 以上のことから,HeII浸漬冷却超電導コイルにおいて,超電導線間やターン間にスペーサーを使うのならば,若干でいいから穴をあけると,熱的な安定性が向上することが示唆される。とくに,熱機械効果が誘起されるような,直径が数μm程度の多孔質材をスペーサーに使うと,その安定性はさらに向上する。ただし,実際にコイルにスペーサーを巻き込むことを考えると,多孔質材の機械的強度や電気絶縁性などについて,明らかにする必要がある。
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