救急自動車走行時に寝台で寝かされている患者の負担を軽減するため、患者に作用する力が常に寝台面と垂直になるよう寝台を傾けることで患者が左右や前後に振られることを防ぐ強制振り子式寝台を開発することが本研究の目的である。この目的を実現するため、ローリングに関しては振り子機構、ピッチングに関しては患者位置の変化による寝台の傾斜抑制および車内スペースを考慮してリンク式振り子機構を採用した寝台を設計した。そして最適制御理論を適用してフィードバック制御系を構築した。本システム特徴は、振り子式によりパッシブセーフティーであり、大きな制御入力を必要としないこと。さらに、振り子の回転中心を患者の重心に合わせることで患者の車酔いを抑え、患者に対する制御系のロバスト性を確保していることである。次に、1/2スケールの寝台模型を製作してピックアップトラックの荷台に搭載し、実際に走行してその有効性を確認した。その結果、走行時LQ制御/停車時LQI制御に切り替えることで、救急自動車がカーブを走行する際に寝台上の患者が被る左右方向加速度を寝台面上において20%以下に、加減速時に被る前後方向加速度を20%程度に抑制でき、停車後の定常偏差も抑えられることを確認した。 しかし、フィードバック制御では加速度が急激に変化するコーナーの入口や出口、発進・停止時にわずかな寝台面上加速度が生じてしまう。そこで、ハンドル角と車速から左右方向加速度、ブレーキペダル踏力から減速時の前後方向加速度を推定するフィードフォワードシステムを構築、強制振り子式寝台に付加した。そして、実際に走行してその有効性を確認した結果、フィードフォワードを併用することで、フィードバック制御のみでは車両に作用する加速度が急激に変化するところで生じていた寝台面上加速度を、左右・前後方向ともに50%以下に低減できることを明らかにした。
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