研究概要 |
高齢化社会において,健康で豊かな社会を築いてゆくために,いわゆる老化による身体機能の低下を工学的に把握することが重要な課題である。本研究では,神経回路網を備えた歩行モデルを導入し,年令による身体機能の変化が歩行に及ぼす影響を明確にし,歩行状態の変化の発生メカニズムに関する生体力学的解析をめざす。本研究では身体機能の低下として,これまで工学が全く着手しなかった「拘縮(関節運動範囲の減少)」を取り上げる。まず始めに,昨年度調査した被検者の内,思春期を過ぎ成長の安定した20〜75歳の健常男性70名の下肢関節可動域データの統計的分析を行った。その結果,膝関節の可動域は年齢に無関係であり,被検者全員の平均(±標準偏差)は最大屈曲で167.14±2.53度,最大伸展で-2.72±3.09度であった。これに対し股関節の可動範囲は年齢とともに狭まっていた,その変化は最大屈曲で-0.183度/歳,最大伸展角で0.308度/歳であった。また,二関節筋であるハムストリングスの長さによって規定される膝関節最大伸展時の股関節屈曲限界角は年齢とともに-0.282度/歳で減少した。同様に,大腿直筋の長さによって規定される膝関節最大屈曲時の股関節伸展限界角も0.397度/歳で増加した。これらの関節角度と年齢間における回帰直線からの標準誤差は股関節最大屈曲で5.14度,最大伸展で6.67度,屈曲限界角で7.45度,屈曲限界角で7.94度であった。次いで,下肢関節可動域を把握した健常男性87名を対象とし,歩行の前段階である立位姿勢に可動域が及ぼす影響を検討した。計測は傾斜角を自由に設定可能な斜面台上に被検者を起立させ,それぞれの斜面角度における関節角度を計測した。その結果,姿勢変化が足関節可動域によって規定されることが確認された。
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