PZTに代替し得る鉛を含まない圧電セラミック材料としてタンタル酸リチウム系圧電セラミック材料を検討した。タンタル酸リチウムはニオブ酸リチウム構造をもち、キュリー点以上においても立方晶とはならない低い対称性のために分極処理の可能な結晶軸の方向が制限され、また、キュリー点が高いため分極処理そのものが極めて困難であると考えられており、これまでセラミックでの圧電体としての応用の可能性はほとんど研究されてこなかった。しかしながら、ペロブスカイト型圧電セラミック材料で行われているような、固溶体による組成変成によってキュリー点を下げ、実用的な圧電セラミック材料が得られるのではないか、との着想の下に実験を行った。その結果、タンタル酸リチウム-チタン酸カルシウム系固溶体において注目すべき結果が得られた。 チタン酸カルシウムは1%を固溶させると約15度Cのキュリー点をもたらす。固溶限界はおよそ20%であると見積もられた。キュリー点の低下とともに誘電率のピークがゆるやかになり、リラクサとしての特徴を示した。また、チタン酸カルシウムの固溶は焼結性の向上にも大いなる効果が認められ、純粋のタンタル酸リチウムでは70%台の焼結密度しか得られないが、数%以上のチタン酸カルシウムを固溶させると97%以上にまで焼結性が向上した。高密度に焼結したセラミックスは無色で半透明である。キュリー点が高く、したがって異方性の大きな材料では、たとえ粒界の空孔が消滅しても粒界での複屈折による散乱は避けられないはずであるのに、このような透明性のあるセラミックを得たことは、物理的にもまた工学的応用にとっても極めて興味深いことである。 15%のチタン酸カルシウムを固溶させたセラミックでは、誘電率のピークを越える温度から直流電界を印加しながら冷却する、いわゆる電界冷却法によって分極処理を試みた。その結果、径方向振動および厚み方向振動による共振が確認された。もともと異方性の大きなセラミックであるので、横効果の径方向振動よりもたて効果の厚み振動の方が結合係数が大きい。また、ポアソン比がちいさなことからエネルギー閉じ込め構造を実現するには電極部を周辺部より薄くする必要のあることなどがわかった。
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