タンタル酸リチウム圧電体は単結晶としては広く利用されているが、セラミックとしての圧電性はこれまでほとんど報告されてこなかった。まず純粋のタンタル酸リチウムのセラミック焼成を試みたが、これは焼結性が悪く、特性評価に耐えなかった。そこで、Ca(Fe_<1/2>Ta_<1/2>)O_3との擬二成分系セラミックの焼成を試みたところ期待通り顕著な焼結性の改善を得られた。この系のセラミックでは固溶量が増加するにつれて、1mol%あたり16℃のキュリー点の低下が見られ、20mlo%が固溶限界であった。固溶量が増加するにつれて相転移はいわゆるリラクサー的な特徴を有するようになる。誘電率のピーク温度より100℃ほど高いところから電界を印加しながら冷却する、電界冷却法によって分極処理をすると明瞭な圧電活性を示した。 しかしながら、これらの固溶体セラミックは焼成時にしばしば亀裂が入り、あるいはちょっとした機械的衝撃で破損することがあった。タンタル酸リチウムの相図を見ると、化学量論組成よりもB-site(タンタルの位置)が過剰の側に雇用領域が広がっている。そこで、このセラックの焼成においてもB-siteの組成を検討したところ、焼成時にクラックを生じることもなく、破損しにくくなった。その上、0.8% B-site過剰の17% Ca(Fe_<1/2>Ta_<1/2>)O_3固溶の試料においては特に大きな圧電性が観察された。 そこでこの圧電セラミックを用いてCMOSのICを使い発振を試みたところ、径方向基本振動に相当する周波数で安定な発振を観察することができ、この系のセラミックが鉛を含まない圧電セラミックとして、少なくとも発振子などの信号デバイスとしては活用できることが明らかとなった。さらにアーチ状の二対の櫛型電極を向かい合わせた試料でLamb波を励振、検出する実験を行い、時間領域で基本応答以下の高次応答まで観察することができ、これらの動作は従来のPZT圧電セラミックとほぼ同等であるということを確認した。さらには演算増幅器の帰還ループにこの素子を挿入して、Lamb波発信器を構成することができた。これによって、この圧電体がLamb波を用いた圧力センサその他の各種センサとして応用できることが明らかとなった。 基本的な考察としては、固溶限界に近い17% Ca(Fe_<1/2>Ta_<1/2>)O_3で圧電活性が最大になる点について注目した。従来のPZT系圧電セラミックでは菱面体晶系と正方晶系との相境界(MPB)で圧電活性が最大となることが知られ、その理由の一つとして、ここでは二つの対称性の自由エネルギーが等しいので変形しやすいことが上げられていた。今回のタンタル酸リチウム系セラミックは菱面体晶系と正方晶系との相境界ではないが、固溶限界に近い組成で起こっており、これは結晶構造が不安定になり始め、そのために変形しやすくなると考えた。このような解釈は今後新たな圧電セラミック材料の探索に一つの指針を与えることとなるものと思われる。
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