斜めスパッタ法により自己組織化的に形成したナノスケールのうね状構造を有する軟磁性薄膜を用いて、高感度トンネル磁気抵抗効果(TMR)を示す薄膜試料作成とその特性を詳細に調べた。その結果以下の知見を得た。 (1)軟磁性高トンネル磁気抵抗効果 斜めスパッタ法で形成したNiFeパーマロイ薄膜上にCoSmO系グラニュラー薄膜を形成し、そのTMR特性を調べた。その結果、100e程度の磁場印加で4%に達するTMR特性が得られた。この結果は、GIG構造に類似の機能によってグラニュラー薄膜内に強いバイアス磁場が印加されているものと解釈された。 (2)斜めスパッタ膜構造の制御 最適な斜めスパッタ膜構造の決定と制御を目的として、Fe、Ni、NiFe、Coなどの起用種々の強磁性薄膜について膜構造と特性を詳細に調べた。斜めスパッタにより形成される磁気異方性の大きさと方向は、磁性金属元素に依存して大幅に変化することを見出した。現時点でその原因解明には至っていないが、Fe、Ni、NiFe間には明快な相関が見られた。現在より詳細な検討を行っている。 (3)誘電体薄膜を用いたTMR試料 斜めスパッタ下地層にNiFe薄膜を用い、上部層としてSiO_2やTa_2O_5などの薄い誘電体層を形成した薄膜試料のTMR特性を詳細に調べた。その結果、ナノスケールのうね状構造をもたないNiFe下地層を用いた場合に比べMR値が大きくなることを見出した。しかし当初期待された数%以上のTMR特性を得るには至っていない。この原因は、(2)で指摘したように、斜めスパッタによるうね状構造制御の難しさにあり、試料ごとに膜構造がばらつくために系統性のあるデータが得られていないことにある。 これらの結果を踏まえ、現在斜めスパッタ法による膜構造制御と、電子線描画によりナノスケールうね状構造を導入した下地層を用いた試料の特性解明を急いでいる。
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