研究概要 |
電子スピンの自由度を最大限に生かしたスピンエレクトロニクス・デバイスを創製するための基本技術である半導体へのスピン偏極キャリア注入の高効率化をはかるために、スピン注入源として有望な完全スピン偏極(ハーフメタル)強磁性体ならびにそれを利用した半導体/磁性体量子超構造を電子状態の第一原理計算に基づいて物質設計ならびに物性評価し、以下に挙げる成果を得た。 1.GaAs等の化合物半導体と整合性のよい高スピン偏極強磁性体を第一原理計算に基づいて探索し、閃亜鉛鉱型CrAs, CrSbならびに格子を平衡状態から若干膨張させたCrPを理論的に設計した。 2.閃亜鉛鉱型CrP, CrAs及びCrSbにおいて、スピン軌道相互作用が伝導電子のスピン偏極率に及ぼす効果を理論的に評価し、スピン偏極率が数%程度しか低下しないことを確認した。 3.閃亜鉛鉱型CrAsにおいて、原子配列の欠陥がそのスピン偏極率に及ぼす影響を評価した結果、As位置を占めたCr濃度が数%になるとスピン偏極率が大幅に低下することを確認した。 4.閃亜鉛鉱型CrAsとGaAsを交互に積層した量子多層構造の電子状態を第一原理計算し、各々を2分子層ずつ積層した多層構造が強磁性状態において完全スピン偏極状態が保持されることを見出した。これにより厚膜作成が困難な閃亜鉛鉱型CrAsまたはCrSbの替わりに上記の多層構造をスピン偏極キャリア注入源として利用する道が開かれた。 5.現在のエレクトロニクス基盤材料であるSiをベースとした強磁性材料を第一原理計算に基づいて設計した。結晶中のSi位置を高濃度に遷移金属で置換した(OO1)面と低濃度に置換した(001)面が交互に積層した量子超構造が強磁性になることを見出した。
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