混晶量子井戸内に形成される励起子分子の局在化を評価するために、これまでにその定量的な評価手法が確立されていない励起子分子のストークスシフトを実験結果に基づいて定義した。励起子および励起子分子発光の励起スペクトルを測定することにより、励起子吸収が生じる共鳴エネルギー位置と励起子分子の2光子吸収が生じる共鳴エネルギー位置を同定した。その結果、励起子共鳴位置と励起子分子の2光子共鳴位置とのエネルギー間隔と、励起子分子の2光子共鳴位置と励起子分子の発光位置とのエネルギー間隔を求め、それらのエネルギー間隔の差を励起子分子のストークスシフトとして定義した。Cd_<0.20>Zn_<0.80>S/ZnS量子井戸構造(井戸層幅3.5nm)における励起子および励起子分子に対するストークスシフトは、それぞれ24meVおよび13meVと導出され、励起子分子の局在の度合いを表すストークスシフトの値は、励起子に対する値と比較して約54%であることが明らかにされた。このことは、励起子と比較して励起子分子の空間的拡がりが大きいことに起因しているものと考えられる。次に、混晶量子井戸層の組成比、井戸層幅および障壁層幅を構造パラメータとして変化させた一連の量子井戸試料に対する高密度励起効果の測定を行い、紫外誘導放出特性と励起子分子の結合エネルギーおよびストークスシフトとの相関を調べた。その結果、励起子分子の輻射再結合過程に伴う誘導放出特性は、励起子分子の結合エネルギーのみならず、そのストークスシフトの値にも依存することが明らかにされた。特に、温度上昇に伴う誘導放出に対するしきい励起パワー密度の増大は、励起子分子のストークスシフトの値と強く相関しており、励起子分子の局在化に伴う熱的安定性の向上が温度上昇に伴うしきい励起パワー密度の増大を抑制していることが明らかにされた。
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