(1)BTNセラミックスは、約200℃にピークを持つ極めてブロードな山型の誘電率-温度特性を示す。このブロードなピークは内部応力の存在による転移温度の揺らぎと関係があると考えられる。しかし一方、BTNセラミックスでは初めて見いだされたことであるが、分極-電界特性のヒステリシスから見積もられる自発分極は約175℃で消滅する。このことは、転移温度の揺らぎが誘電率のブロードなピーク全体にわたっていないことを示唆する。 (2)内部応力の揺らぎはセラミックス中の結晶粒の方位がランダムであるためである。配向膜なら例え内部応力があっても、その揺らぎは小さいと思われる。(111)Pt/Ti/SiO_2/Si基板上にMOD法により薄膜を作製し、誘電率の温度特性を測定した。Pt膜が(111)面であったので、(100)SrTiO_3基板の時のような単一方位に配向せず、結晶化温度800℃では[310]、[620]および[441]方向の配向が混在した膜が得られた。この膜の誘電率-温度特性は約258℃に極大値を持ち半値幅約2〜3℃のピークを示した。このことから、セラミックスでの極めて幅広い誘電率ピークは内部応力の大きな揺らぎに密接に関係していると言える。 (3)自発分極が約175℃で消滅することから、誘電率の幅広いピーク全体が必ずしも強誘電性でないことが予想される。加熱装置付の偏光顕微鏡観察によって強誘電性分域の消長を調べれば、強誘電性である温度領域を見積もることができる。しかし、現在のところ明確な結果が得られていない。分域のサイズが光学顕微鏡の分解能以下であるためかも知れない。今後さらに検討を継続する。
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