酸化物超伝導体は、酸素脱離で劣化するが、大別して(1)大気中放置、(2)高温プロセス、(3)絶縁層形成の過程で生じる。絶縁層形成には、SIS用トンネルバリアの形成、層間絶縁層の形成、保護膜形成の3つの場合がある。何れも一般の絶縁材料を酸化物超伝導薄膜上に堆積すると、その超伝導性は大きく劣化する。 本研究は、酸素脱離で劣化した酸化物超伝導薄膜の回復処理、絶縁層形成による下地超伝導薄膜の劣化状況の把握と回復処理、更には、下地超伝導薄膜が劣化しない絶縁層形成法等を高密度の酸素プラズマを駆使することによりそれら技術を確立することを目的としている。一年目の研究項目と成果は以下の通りである。酸化物超伝導薄膜としてEuBa_2Cu_3O_x(EBCO)を使用した。 1.酸化物超伝導薄膜の劣化・回復過程の解明-EBCO薄膜の酸素脱離は低酸素中320℃から始まり温度上昇と共に急激に生じた。劣化薄膜の回復処理では、純酸素2000Paでも完全に回復しないが、活性化酸素プラズマに曝した場合には、200Paでも特性は回復した。 2.スパッタ励起酸素プラズマ中での絶縁層堆積-EBCO薄膜上に、STOとCeO_2をスパッタ法で堆積したが、CeO_2よりSTOの方がEBCOの特性劣化は著しい。酸素中回復処理より活性化酸素プラズマ処理の方が下地EBCOの特性は回復するが、回復度合いは絶縁層膜厚に依存した。 3.酸化物超伝導素子用保護膜の開発-スパッタプラズマ中500-570℃でCeO_2を堆積すると下地EBCO薄膜は劣化しないことが見いだされた。2000ÅのCeO_2を堆積したEBCO薄膜は70%湿度中でも殆ど劣化せず、CeO_2は良好な保護膜になり得ることが分かった。 4.マイクロ波プラズマの導入準備-スパッタ装置へマイクロ波導入のため装置改造を行い、導入窓に焼結アルミナを用いたがマイクロ波発生でクラックが生じた。現在、石英窓による導入法を検討中である。
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