研究概要 |
Y系超伝導体は、酸素含有量に非常に敏感である上に、酸素原子は格子内に入りにくく、脱離し易い特徴を有する。薄膜の酸素脱離は、(1)大気中放置、(2)高温プロセス、(3)絶縁膜形成の過程で生じる。本研究では、活性化酸素プラズマを駆使し、1)酸素脱離により劣化した超伝導薄膜の回復、2)絶縁層形成時の下地超伝導薄膜の劣化防止、又は、回復を可能にするプロセス技術の確立を目的とした。活性化酸素プラズマとして、酸化物超伝導ターゲットを用いたスパッタプラズマとマイクロ波で励起したプラズマの適用を計画した。後者については、既存装置にマイクロ波の導入を試みたが、内部冶具の反射により真空導入窓が破壊され、装置の大幅改造が不可欠となった。そこで、前者のスパッタ酸素プラズマを用いての所期の計画を実行し、次の成果を得た。Tce=90 Kのas-grown EuBa_2Cu_3O_7(EBCO)を出発薄膜として用いた。 a)酸素脱離したEBCO薄膜の回復処理---高特性のEBCO薄膜が得られるスパッタ酸素プラズマ中劣化EBCO薄膜を、焼鈍温度(Tsa)、プラズマ露出時間(tp)、焼鈍後の酸素導入圧(Pox)で処理すると、Tsa=450-700℃、tp≧30 min、Pox≧2 kPaで再現性良く、超伝導特性が完全に回復することが分かった。従来の酸素焼鈍法に替わる新しい回復処理技術として確立された。 b)スパッタ励起酸素プラズマでの絶縁層堆積---as-grown EBCO薄膜上にSrTiO_3(STO),CeO_2薄膜を活性化酸素プラズマ中で堆積した結果、STOはCeO_2よりEBCOを著しく劣化させた。STOの前にCeO_2(50Å)を堆積すると劣化は緩和された。これら多層膜を活性化酸素プラズマで処理すると回復するが、その度合いは、STO膜厚、Poxと冷却時間に依存した。また、厚膜のCeO_2をスパッタ酸素プラズマ中、500-570℃で堆積すると下層EBCOが劣化せず、2000ÅのCeO_2で被服したEBCO薄膜は高湿度中でも高特性を維持し、CeO_2は完全な保護膜機能を有した。
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