本研究は、エネルギーバンドギャップが2.4eVで直接遷移型のバンド構造を持っ硫化カドミウム(CdS)薄膜を用いた緑色発光ダイオードの作成と、Cuをドーピングしたp形CdS膜(CdS : Cu膜)におけるCuの役割の解明を目的としている。 12年度は、CdS : Cu膜におけるCuの役割を解明するため、X線光電子分光分析(XPS)を行った。得られた結果とX線回折等のデータとを比較検討し、CuはCdS中でCdと置換してアクセプタとして振る舞っていることを明らかにした。一方、p-CdS : Cu/n-CdS pnホモ接合ダイオードを作成し、液体窒素中77Kで順方向パルス電流による青緑色、緑色、赤色発光を観察した。 13年度には、発光色を詳細に観察し、スペクトルの測定を試みた。発光色はCu濃度などの作製条件及び順方向電流密度に依存し、電流によって青緑色から赤の範囲で変わることがわかった。装置の関係でスペクトルの測定はまだ不十分であるが、スペクトルはブロードで、ピークは電流密度の増加と共に短波長側にシフトした。いずれのスペクトルもCdSの吸収端付近に小さいピークが観察された。He-Cdレーザを用いて、室温でCdS及びCdS : Cu膜のホトルミネッセンスを測定した結果、Cuのドーピングは、価電子帯の上およそ1eVの深い順位から浅い順位まで広く分布したアクセプタ順位を形成することが明らかになりつつある。従って、発光はp-CdS : Cu/n-CdS pnホモ接合によって生じ、発光色の変化は、CdSのバンド間あるいはバンド端付近の遷移(青緑色)と、Cuのドーピングによって生じた広い順位を介しての遷移(黄、赤色)による発光の組み合わせによって生じていると考えている。また、このダイオードは良好な太陽電池特性を示し、変換効率は8.5%以上になった。これら成果の一部はすでに報告済みであるが、残りも順次報告の予定である。
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