光領域において、信号の伝搬方向に対し非可逆に増幅する能動素子、つまり一方向性光増幅素子は存在していない。本研究は、真空中に放射された電子ピームを用い、一方向性の光増幅器を実現しようとするものである。 誘電体導波路を伝搬する光は、導波路の屈折率の為、自由空間での光速より遅くなる。また、光は誘電体導波路から外界に一部を染み出して走行する。電子ビームを誘電体導波路の表面に沿って伝搬させ、電子ビームの速度を導波路中を伝搬する光の速度に一致させると、染み出している部分を通じて、電子ビームのエネルギーが光に移り、光が増幅される。逆方向へ伝搬する光は、電子ビームと速度が大きく異なるので、増幅されない。なお、光が増幅されるためには、電子ビームの走行方向に光の電界成分がなければならず、TM波だけが増幅される。以上が、提案している一方向性光増幅器の動作原理である。 当該科学研究費が供与される平成11年度までの各種予算により、真空装置を母体とした実験装置をくみ上げてきたが、昨年度の本予算で電子レンズを購入し、電子ビームの集光性を改良した。また、電子ビームによる材料の帯電が実験を不安定にしていたので、導波路表面にストライブ状の電極を付け、帯電した電子をアースに逃がす様な構造にした。その結果、a-Si蒸着膜をコア層とする誘電体導波路で、導波光の増強を観測した。増強するTM波の電子加速電圧依存性はほぼ理論計算と一致し、提案している現象であろうと推測している。しかし、TE波も増強している為、材料での光吸収と発光が特性に関与している可能性もあり検討している。 導波損失の少ない、SOI基板を導波路として利用する実験や、入射光用の導波路部試作も始めたが、まだ、データを得るには至っていない。
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