本研究の目標たる光スイッチは、シリコン中自由電子による赤外光の吸収を利用するまだ世界にその例を見ない挑戦的な試みである。実現の要は、光と相互作用する自由電子の量をいかに確保するかというもので、このため櫛形MOSトランジスタによる新たな光スイッチを試作した。下記の理由により、最初の試みは失敗したが、櫛形トランジスタの動作に成功し、かつ導波路の解析により、今後の指針を得た。 <櫛形トランジスタによる光スイッチ動作を確認できなかった理由> (1)入射した直径10μmの平行赤外光は高さ1μm、長さ1mmの櫛形ビーム中にとどまらず、基板のsi中に抜ける。 (2)櫛形の隙間に埋め込まれた不純物を10^<21>cm^3程度含む多結晶siが入射赤外光を強く吸収する。 <櫛形トランジスタの動作を確認> (1)実効チャネル長2μm、高さ1μm、幅50nmのSiビームMOSトランジスタが正常に動作した。 (2)ビームを31本備える櫛形MOSトランジスタは同じ平面面積の5倍の駆動能力を有することを実現した。 <光スイッチ動作を実現するための今後の工夫> (1)SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用い、赤外光を周囲より屈折率の大きなSi中に閉じこめる。 (2)ゲートにITOなどの透明電極を用いる。しかし、理論解析により導電率の低い方が赤外光吸収が少ないことが判明した。従って、ゲート電極としての導電率には最適値が存在することが予想できた。 (3)Alなどの反射率の高い金属をゲートに用いる可能性が解析により示唆されたので、上記ITOとともにAlゲート光スイッチMOSトランジスタを試作する。 (4)これらの実験、解析結果に基づき、引き続き光スイッチMOSトランジスタの実現に挑戦する。
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