研究概要 |
動画像中の動きを精密に表現すれば,符号化に応用する際に,動き補償後のフレーム間差分信号の符号量を削減できる.しかし,一方では動き表現のための符号量を増加させてしまう恐れがある.総符号量は両方の符号量の和であるので,動き情報の扱いに研究の軸足をおいていても,常にこれらの和を問題にしていなければ,動画像符号化への応用という目標を見失う.そこで,本年度は総符号量を念頭においた動き表現の評価法を研究し,実用性のある評価尺度を得た.この尺度は後段のフレーム間差分信号によって費やされる符号量を情報理論で知られている理想値で置き換えるという自然な発想から得られた.勿論,フレーム間差分差分信号を実際に符号化すれば済むことではあるが,それには様々な要因が入りこみ,動き表現だけを抜き出して,その性能評価を行うことは困難になる. 上で述べた動き表現の評価法を用いて,動き表現を研究した.従来動画像符号化において支配的な動き表現は,平行移動モデルである.このモデルにおいては,画像は多数の矩形小画像に分割され,個々の小画像内の画素は,過去のフレームに一様な平行移動により対応付けされる.小画像が緩慢な動きをする剛体の部を表している場合は,平行移動モデルは簡単で実用性が高い.しかし,激しいスポーツ画像においてはこのモデルは適切ではない.本研究の成果として,平行移動を基調にしながらも,小画像内の画素に確率的な動きが加わるという統計モデルを得た.このモデルのもとでは,小画像内の1画素には過去フレームの唯一の画素が対応するのではなく,複数の画素が対応する.統計処理によって最終的にその1画素の画素値を予測する.具体例として線形予測を用い,このモデルが有効であることを実験により確認した. 動きベクトルの符号化法を検討した.従来,符号化対象フレームの動きは,そのフレーーム内の近隣における動きを用いて予測符号化される.本研究においてはフレーム内の近隣に加えて過去フレームの動きも予測に動員することにより,動きの予測精度が向上し,動き表現に要する符号量が減少することを明らかにした. 次世代の動きモデルの基礎とすべく,新たな画像の領域分割法を得た.これを用いた動きモデルの開発までは研究は進展しなかった.
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