研究概要 |
移動通信において従来より格段に周波数利用効率の優れる多値伝送方式について検討した。本年度は,特に(I)フェージングを考慮した最尤系列推定を行う多シンボル遅延検波方式,及び(II)直接拡散符号分割多元接続方式(DS-CDMA)方式の多値化とその検波方式について検討した。 (I)に関しては,フェージングを考慮した系列推定式においては,逆行列を計算する必要がありブロック長(N)が大きい場合には実現困難が伴うため,この高速算法の導出を行った。その結果,従来の算法ではNの3乗程度の計算量が必要な所を,この高速算法によると約Nの2乗程度で実現でき,大幅な高速化が可能となった。この結果を受けて,16値のスターQAMに対してフェージングによる自己相関を考慮した多シンボル遅延検波を適用し,N=10程度とすることが可能となり,相当速いフェージングが存在する環境下においても,現実的な誤り率においてエラーフロアが現れないことを確認した。 (II)に関しては,巡回畳込み型マッチドフィルタを適用したDS-CDMA方式を提案している。本方式の基本概念は次の通りである。従来のDS-CDMA方式では受信側におけるマッチドフィルタ処理によって時間圧縮された三角パルス信号が発生し,この極性判定によって情報の検出を行っていたが,提案方式は,マッチドフィルタの極性だけでなくその出力位置にも情報を載せることによって,1信号区間で多数のビットを送る方式である。各ユーザに割り当てられた拡散符号に対して,送信情報に対応した巡回ビットシフトを施して伝送し,受信側では対応した巡回ビットシフトした拡散符号で復元したときにのみマッチドパルスが発生するので,情報の復元が可能となる。また,1信号区間で従来より沢山の情報が伝送できるので,複数の信号区間で同じ情報を連送することが可能であり,これによって誤り率特性の改善も期待できる。この方式に対して計算機シミュレーションを行い,良好な誤り率特性が得られることを確認した。
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