著者が開発した丸めのモード制御方式の精度保証付き数値計算技法を計算機クラスター上で実行できる形のアルゴリズムに展開し、8台、16台、64台のCPUをもつクラスター上に実装した。クラスター上での計算アルゴリズムとしては、計算複雑度と空間複雑度(メモリー量)の二つの観点から、幾つものバリエーションを考え、この二つの測度によってそのアルゴリズムを特徴づけた。 大規模な問題においてはメモリー量が計算を実行する上でボトルネックになる場合があるが、理論的に最小に近いメモリー量で動く精度保証付き線形方程式解法アルゴリズムにおいては、実際の計算速度がかなり遅くなることがあり、若干メモリー量を多く必要とするアルゴリズムの方が理論的な計算複雑度に見合う実際的な計算速度を達成できることがわかった。これは、メモリーをぎりぎりまで節約すると、キャッシュの最適化を犠牲にしなければならないことによることが、実験結果の解析によって判明している。 現在のコンピュータ技術やパソコンの価格から、数十台のCPUからなるクラスターは容易に配備できるが、この規模のPCクラスターによって約3万次元の密係数行列をもつ連立一次方程式の精度保証付き数値計算ができることが本年度の研究によって明らかになった。これは、多くの2次元の偏微分方程式の精度保証付き数値計算には十分な性能である。 一方、3次元の偏微分方程式の精度保証付き数値計算を実施するには、単にPCクラスターの規模を大きくするだけでは、解決できない問題も明らかになった。すなわち、 (1)問題の規模が大きくなるにつれ、出現する連立一次方程式の条件数も大きくなる。 (2)問題の規模が大きくなると、丸め誤差の集積も莫大となる。 などである。 次年度においては、これらの問題を本質的に解決し、更に大規模な問題の精度保証付き数値計算ができるような理論と実際的手法を開発する予定である。
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