本研究は精度保証付き数値計算の高速化に関する研究成果をまとめたものである。以下、本研究の目的と研究成果について述べる。 1.本研究の目的と必要性 浮動小数点演算による計算には(a)丸め誤差、(b)方程式を近似する離散化誤差、(c)反復解法を有限回で停止する打切り誤差が生じる。精度保証付き数値計算はすべての誤差を厳密にかつタイトに評価することを目的とする。本拠点形成においては、各種の計算システムの効率的でユニバーサルな精度保証方式を開発することを目標としている。特に、数値計算の基礎となる、線形計算において、近似解を求めるのとほぼ同じ計算量で精度保証することを目的としている。この目標は画期的なもので、従来は近似解を求める計算時間の1万倍に及ぶ計算量が精度保証に必要であった。 2.研究成果 著者はベクトルや行列の加減算と行列の乗算に対する区間演算が丸めの方向の指定を2回行うだけで実行でき、また、行列の加減算と乗算のライブラリをそのまま用いて実行できることを示した(ベクトル区間演算の提案)。また、近似計算の各ステップを区間演算に置き換えるのではなく、近似解を普通に計算した後、その近似解に対し、摂動定理などの事後誤差定理により、精度を計算する手法を採用した。これにより、近似解の計算時間の9倍の計算時間で精度保証できることを示した。更に、後退誤差解析を発展させた理論により、近似解を求めるのとほぼ同じ時間で連立一次方程式の数値解の精度保証ができることを示した。従来比、1000倍から10000倍の高速化である。また、IEEE754規格に従う各種計算機に適用できるユニバーサルな方式であり、PCクラスターにより蜜行列で3万次元、疎行列では数百万次元まで実際に扱えることを実証し、精度保証が一気に実用段階に達した。
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