研究概要 |
本年度は,把持運動における予測的調節メカニズムについて調べる基礎的実験として,把持運動における把持力生成メカニズムを調べるための計測実験と腕運動における予測的調節メカニズムについて調べる計測実験を行った. ・把持力生成メカニズム 本実験では,力覚提示装置(PHANToM2台)を用いて,対象物の負荷力に粘性負荷を負荷することにより3種類の負荷力をもつ対象物を実現した.この対象物を初期位置まで持ち上げ,その状態での把持力(初期把持力)を変化させることにより,把持力と負荷力の関係について解析・評価した.この結果,初期把持力が変化しても把持力の大きさだけが変化し,そのプロファイルは初期把持力に関係なくほぼ一定となることが明らかになった.さらに,それぞれの負荷力のプロファイルを考慮して把持力が生成されていることも明らかにした.以上の結果から,人は対象物を把持して操作するとき,予測した負荷力を考慮して把持力のプロファイルを生成するモジュールと把持力の大きさを決定するモジュールが独立に存在している可能性を示している. ・予測的調節メカニズム 本実験では,タイミングが重要となる視覚運動課題を用いて,タイミングに合わせて運動するときの腕の筋電信号を計測・評価した.この結果,学習初期には体性感覚情報に基づいた反射的メカニズムにより腕の拈弾性が調節されているが,学習が進行するにつれて,予測的メカニズムに徐々に移行することが示された.また,この学習過程において,総筋活動量が徐々に少なくなり,学習後には少ない筋活動で課題が達成できるようになった.さらに,運動誤差(手先振動の振幅)と屈筋と伸筋の同時活動度(拈弾性に対応)が線形関係にあることも示した.この結果は,我々が以前から提案してきた拈弾性調節スキームによる予測結果と一致し,我々のスキームの妥当性を支持している.
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